商業地域は日影規制に気を付けて【不動産鑑定士が解説します】

日影規制

日照権という権利のことを聞いたことはありますか?

陽当りを確保し享受するする権利のことです。

日光は人の健康や生活と密接に関連していると考えられているので、陽当りを享受する権利が認められているのです。

そして、日照権の考えを建物の建築について認めて定められたのが日影規制です。

ただし、ショッピングモールとか工場についてこのような権利を認める必要性は乏しいですよね?

買い物中や荷捌き中に陽が当たるとかえって暑いですし。

なので建築基準法で日影規制が定められるのは居住用の建物が建つ可能性が高い用途地域、具体的には住居系の地域+近隣商業地域+準工業地域です。

逆に日影規制が定められないのは商業地域・工業地域・工業専用地域です。

「あれ、だったらこの記事の見出し『商業地域は日影規制に気を付けて』っておかしくない?」

と思った方はおられますか?でもこの見出し、あってます。

日影規制で何が規制されるかと言うと「建物が隣地に落とす影」です。

太陽は時間によって地上から見たら円弧を描くように移動しますので、影も伸び縮みしながら移動していくので具体的な計算方法は複雑になるので説明は割愛しますが、建築士の方でも通常は専用CADソフトで計算します。

で、問題はあなたの土地が商業地域であっても、その土地上に建てた建物が影を落とす隣地が日影規制が定められている用途地域であれば、あなたはその規制の範囲内でしか建物を建てることができないという点です。

商業地域は高集積度の利用が前提とされていますので、容積率(土地面積の何倍まで建物の面積を建てて良いかを%で示したもの)は高くなります。例えば600%とか700%とか。

で、土地の面積の700%つまり7倍までの床面積の建物を建てようとすると単純計算で7階建、実際には土地いっぱいに建物を建てることは稀なので8階以上になることが多いです。

つまり、容積率が高い商業地域の土地では建物が高くなるので隣地に落とす影も長くなっていくわけです。

ここで、隣地も商業地域であれば日影規制がないので問題ないのですが、もしも隣地が住居系の用途地域だとあなたの土地は商業地域内にあっても住居系の用途地域の日影規制が適用されてしまいます。

すると、場合によってはせっかく容積率700%の土地なのに、建築士に北側の住居系の用途地域の隣地の日影規制に適合する建物を設計してもらったところ容積率が300%しか消化できない、ということが起こり得ます。

商業地域の土地は基本的に容積率が高いほど価格も上がります。店舗・事務所ビルの敷地となるので、同じ土地面積であればより多くの建物面積を取れた方が賃料収入が多くなるため価値のある土地と考えられるためです。

なので容積率700%の土地に実際は日影規制のために300%の建物しか建たないとなると、それなりの価格で取引しないと大損をしてしまうのです。

なお、日影規制は日影を問題にしているので、太陽は南側にあることを考えると問題となる隣地は主に北側隣地です。

具体例

以下の図は港区の東京メトロ表参道駅の周辺の都市計画図です。

仮にあなたが青い円のところの土地を購入して建物を新築しようとしているとします。あなたの土地は商業地域内にあって容積率は700%です。

太陽は南東から昇って南を通って南西に沈みますので、日影はその逆つまり北西から伸びて北を通って北東に伸びるということになります。

ところが北西側隣地は第一種住居地域ですので日影規制があります。なのであなたが新築しようとしている建物は本来の容積率700%を消化することができないかもしれません。

対策

このような場合、一体どうしたらいいのでしょうか?

あなたの土地や周囲の土地の状況がわかる地図・図面を渡して、建築士の先生に隣地の日影規制に適合した建物の図面を書いてもらえば容積率がどれくらい消化できるかが確認できます。

これを一般に「ボリュームチェック」とよんでいます。

建物が作る日影は曲線的に動いていくので計算は複雑になりますので、あなたが手計算で求めるのは難しいと思ってください。プロに依頼するのが最善です。

まとめ

以上、商業地域は日影規制がないためにチェックを怠りがちな隣地の日影規制の重要性について解説しました。

商業地域に土地を買おうとする場合には必ず隣地の用途地域や日影規制を調べて、建築士の方にお願いしてボリュームチェックを済ませてから価格交渉をしてください。

もしもお願いできる建築士の心当たりがなければお問い合わせ欄からご相談ください。

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