ビルの谷間に低層建物のナゾ【不動産鑑定士が解説します】
10階建や20階建のビルの谷間に2~3階の建物が建っているのをみたことはありませんか?
このようなことが起こる理由はいくつかあるのですが、20年超の鑑定歴の中で多かったパターンを3つ解説します。
建物が低層なパターン3つ
①法令の制約で建てられない
解説
ビルの谷間に低層の建物が建っているパターンその①は、土地が都市計画法で決められている都市計画道路などの予定地になっている場合です。
都市計画法は「住みよい街づくり」、街を秩序立ててつくっていくための法律です。
ですから「ここには高層の商業用の建物を誘致したい」とか「ここは新たに道路にしたい」「この道は細いので幅を広くしたい(拡幅といいます)」などといった計画を決めていくのですが、直ちに工事が始まるとは限りません。道路の拡幅など必要性に応じて順序よく工事を進めていきます。
「だったら工事の直前に都市計画を定めればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、そうすると道路の拡幅予定地に建物が建ち並んでしまって、道路工事の時にこれを壊さないといけなくなったりするとムダですよね?
だから「ここは道路拡幅予定地ですよ、なので一定の高さ以上の建物は建てないでくださいね」と決めておく必要があるのです。そして一旦このように決められると、建物が建てられるのは次の3つに該当する場合に限定されます。
- 階数が2以下であること
- 地階を有しないこと
- 主要構造部が木造、鉄骨造、コンクリートブロック造、その他これらに類する構造であること
ちなみに東京都では階数2階以下の要件が3階以下で高さ10メートル以内に緩和されています。
調べ方
法令に基づく制約ですので都市計画図を見れば知ることができます。
港区のウェブサイトに掲載されている都市計画図のうち骨董通りの部分です。茶色い線が両脇の建物にかかっているのがわかります。
この部分が都市計画道路予定地で建物の建築が制限されています。
これが「ビルの谷間に低層の建物が建っている」パターンその①です。
②契約上の合意がある
解説
ビルの谷間に低層の建物が建っているパターンその②は契約上の合意がある場合です。
地下に下水道やガス管、地下鉄を通す場合に、その部分に高層の建物を建てるとその重みで下の構造物がつぶれてしまう恐れがあります。
なので、下水道やガス管や地下鉄を通す事業体が土地の所有者に対して「土地のこの部分に建物を建てる場合は事前にご相談します」とか「○○kg以上の荷重をかけません」という内容の約束をお願いすることになります。
その結果、低層の建物しか建てられなくなる場合がでてくるのです。
これがビルの谷間に低層の建物が建っているパターンその②です。
調べ方
このような合意がなされた場合、通常は土地に地上権などの権利が設定されます。ですので土地の登記情報により確認可能です。
登記情報は法務局またはインターネットで取得できます。有料です。
登記情報は表題部と権利部とにわかれていて、表題部は主に不動産の外見に関する事項(所在、面積、地目など)が、権利部は外見からはわからない不動産の権利に関する事項が書かれています。
また、権利部は甲区と乙区にわかれていて、甲区は所有権に関する事項、乙区は所有権以外の権利に関する事項が書かれています。
地上権は所有権以外の権利に関する事項ですので権利部の乙区に書かれています。
③借地の場合
解説
ビルの谷間に低層の建物が建っているパターンその③は建物の敷地が借地の場合です。
借地契約に関する法律上の制約は借地法に定められていて、土地を借りている人は地主さんの承諾なしには建物の建て替えができないことになっています。
(注:借地契約の成立した時期により借地法、借地借家法のいずれかに従うことになりますが、その解説は長くなるのでここでは割愛して借地法を前提にお話しを進めます。)
そして、地主さんに建物の建て替えの了承をいただくには通常は更地価格の3~10%の承諾料を支払うことになります。5,000万円の土地だと150万円~500万円になります。また、どうしても了承していただけない場合には裁判で争う必要があります。
このような手間やお金がかかるのが嫌ならば建物を建て替えずに利用を続けることになります。
地域は生き物で、日々変化しています。昔は木造の低層建物が建ち並んでいた場所でもやがて経済が成長して都市が外へ外へ広がっていくうちに高層ビルが建ち並ぶようになります。自分の土地であれば何を建てようと自由だからです。
ところが借地では建物の建て替えが容易ではないので、周囲の土地ではどんどん地域の変化に合わせた建物に建て替わっていくのに借地では建物は昔のままということになります。
これがビルの谷間に低層の建物が建っているパターンその3です。
調べ方
確定的に調べる方法はない(その理由は説明が長くなってしまうので割愛します)のですが、土地と土地上の建物の登記情報を調べて、各々の登記名義人が違えば借地である可能性は高いです。
まとめ
以上、ビルの谷間に低層の建物が建っている理由のうち代表的なもの3パターンをあげて解説してみました。
街づくりのための法律上の手続き、地域を支えるための下水管などの埋設、民間の土地利用のための個別の契約などのさまざまな要因による制約によって街並みが形成されていることがご理解いただけたと思います。