アパート経営で失敗する理由と対策3つ【不動産鑑定士が解説します】
アパート経営を検討しているけど多額の建築費を借り入れるので不安、 どうしたら失敗しないか知りたい、 などと考えていませんか?
本記事では、以下の内容を解説します。
- アパート経営で失敗する典型的なパターン
- アパート経営で失敗しないための方策3つ
不動産鑑定、証券分析・営業にプロとして30年以上携わってきて、多くの賃貸物件の評価もご依頼いただき、アパートオーナーさんにもお目にかかりましたし、建築・不動産業界や企業を分析してきましたので、その経験を踏まえて解説したいと思います。
アパート経営で失敗する典型例
アパート経営を検討している理由は様々だと思いますが、
- 老後が不安なので退職後も安定した収入がほしい
- 相続税を節約したい
といったことをあげられる方が多いです。
そんな時、退職後も安定収入が得られる、しかもいずれ訪れる最期の時にあって子供たち相続税の負担が軽くな方法があるといってアパート経営の提案を受け、業者の営業の方が熱心に訪問を繰り返したら当然あなたの心は動くでしょう。
でもちょっと待ってください。
老後の不安や相続税の負担の軽減はすべて「あなた」の事情です。一方、あなたにアパート経営を持ちかけてくる人たちには「彼ら、彼女ら」の事情があるのです。
また、アパートを建築して賃貸を始めたとします。その時に安定的に賃料収入を得たいというのは「あなた」の事情です。でも、部屋を探して賃借して下さるテナントには「彼ら、彼女ら」の事情があるのです。
まずこのことを確認したうえで、アパート経営に失敗する典型的なパターンを解説します。
①業者の事情を理解していない
業者の営業の人たちがあなたを訪問する理由
業者の営業の方が熱心に来て下さってアパートの建築を持ちかけられる。「でもお金がないから」と言うと「融資は私が何とかしますよ、今だと金利も安いし」と借り入れを勧めてくれる。「きちんと返済できるか不安だ」と言うと「定額賃料を35年間保証するから返済は大丈夫」と安心させてくれる。
「そこまで私のことを考えてくれるんだったら」と思うようになるのも当然でしょう。でも、ここで目を覚ましてください。
違います!
業者の方はあなたのために訪問を重ねているのではありません。あなたを訪問しなければならない事情があるのです。それは、会社から給料・報酬をもらっている立場の者として会社の売上・利益に貢献することです。
もっと具体的に言うと「アパートの建築工事を受注すること」です。
業者は建築利益で儲けている
なぜ建築工事を受注したいかというと、これが一番会社の利益に貢献するからです。
ちょっと具体例を見てみましょう。下に示すのが業界トップクラスの会社の2019年3月期決算におけるセグメント利益情報の概要です。
建築事業利益 | 74.9% |
不動産事業利益 | 22.9% |
金融事業利益 | 2.1% |
*四捨五入の関係で合計が100%になりません。
この会社のセグメントを解説すると、建築事業利益は土木・建築その他建設工事全般に関する事業から生じた利益です。不動産事業利益は、不動産の一括借上、賃貸、仲介、入居者の保証人受託業務及び管理に関する事業等から生じた利益です。金融事業利益は施主が金融機関から長期融資を実行されるまでの建築資金融資事業等から生じた利益です。建築事業利益が圧倒的に大きいですよね?
このデータが示す業者のバリューチェーンは以下の通りです。
- 見込客から建築工事を受注して利益を出したい(建築事業)
- 手元資金がない見込客のために融資を用意する(金融事業)
- 返済原資の不安を取り除くために一括借上げを提供する(不動産事業)
業者にとっては事業の主たる目的は建築工事の受注で、賃料保証や融資のアレンジなどはこの中核業務の補助手段なのです。
あなたの利益は安定的な収入を得ること
もちろん、あなたがアパート経営を検討するにあたって障害となる建築資金の借り入れや返済原資確保のための一括借上げを提案するのは立派なソリューション営業です。ではアパート経営の失敗がなぜ起こるかというと、一括借上げを過信してしまうからです。
アパート経営の失敗で一番多いパターンは、当初「定額賃料35年間保証」という条件で持ち掛けれられた一括借上げの賃料を減額されて融資の返済ができなくなってしまう、というものです。
さっきの業者のバリューチェーン1~3をもう一度見てみてください。あなたにとって一番大事なのはどれですか?3番目の項目の借入返済原資確保のための一括借上げではないでしょうか?でもこれは業者にとっては建築工事受注のための補助手段で、一番大事なのは1番目の建築工事の受注なのです。
ここで、せっかく建築工事で儲けても一括借上げで損を出してしまうと意味がないので、一括借上げの「期間は35年間」であったとしても賃料は「5年ごとに改定する」といった契約内容として契約書が作成されるのが通常です。
②契約書を読まない
「それはおかしい、確かに業者の事情はそうかもしれないが約束は約束だ、間違いなく期間35年間定額賃料と言った」というケースは多いです。なのになぜ約束が『反故にされる』ようなことが起こるのでしょうか?
借地借家法の建て付け
建物の賃貸借に関することが定められている借地借家法ではテナントに賃料減額請求権が認められています。そして一括借上げの場合、あなたがオーナーで業者がテナントです。
なので契約に特段の合意がない限り、周辺の賃料相場が下がる等の事情があれば業者があなたに賃料の減額請求をするというのは当然の権利なのです。
契約書を読まないで捺印してしまった
「そんなことはない、確かに営業の人が一括借上げは期間35年間で定額賃料だと言った、ここに営業の人が持ってきた資料もある」と主張したところで、契約書にそのように書かれていなかったらどうやってそれが最終合意であったことを立証しますか?
確かに営業用資料に書いてあるかも知れません。会話の録音があるかも知れません。でも、資料提出後や録音された会話の後にそれを変更する合意があった、だから契約書にはそのような記載がないんだ、と主張されたらどうやって反証しますか?
③最終(エンド)テナントの事情を考えない
業者としても一括借上げの賃料を積極的に減額したいわけではないかも知れません。ではなぜあなたに減額請求をするかというと周辺の賃料や物件の稼働率が下がってしまったために最終(エンド)テナントから得られる収入が当初の一括借上げ賃料を下回ったからではないでしょうか。
住宅取得を検討している方が良く言うのは「借りるより勝った方が安い」です。買ったら自分がオーナーで、負担するのは住宅ローンの返済と管理修繕費実費と固定資産税・都市計画税です。一方借りた場合はこれに加えてオーナーの賃貸利益及び管理業者の報酬も賃料として負担することになります。しかもローンの利息は自己居住用物件の方が賃貸用物件より低いので、当然借りるより買った方が安いのです。
にもかかわらずなぜ借りるかというと、継続してそこに住む意思がないからです。これはつまり賃貸した部屋は将来必ず空室になることを意味します。そして一旦エンドテナントが退去したならば次のエンドテナントには市場賃料で賃貸することとなります。募集賃料が市場賃料より高いと契約してもらえないからです。そして市場賃料が下落傾向であれば業者は必ず一括借上げ賃料の減額請求をしてきます。
ではなぜ市場賃料が下がるのかということを需要と供給に分けて考えます。
- 需要:人口・世帯数の減少により需要が減少する
- 供給:誰しも老後の収入や子供の相続税負担は心配なので供給が増える
このような環境では賃料が下がると考えるのが自然ではないでしょうか。
④工務店のお客さんは業者
あなたが業者とアパートの建築を契約したならば、実際に工事を施工するのはその業者と契約している地元の工務店です。つまり、工務店のお客さんは業者であってあなたではありません。
だから工務店は業者から指示された図面・仕様通りに建物を施工します。
ただ、あなたが業者と契約した図面・仕様と、業者が工務店に発注するときの図面・仕様が同じとは限りません。
伝言ゲームというのをご存知ですか?何人かの人がチームになって、複数チームでいかにメッセージを最初の人から最後の人まで口頭で正確に使えるかを競うゲームです。
例えば
「太郎君がおかあさんに頼まれてさんまを買いに行ったら売り切れだったので校庭で遊んで帰った」
といった文章がAさんからBさん、BさんからCさんと伝わっていくうちに
「太郎君がおばあさんに頼まれてさばを買いに行ったら品切れだったので公園で遊んで帰った」
になってしまったりするのです。
あなたが契約した業者内で、あなたと契約を詰める営業の人と、実際に契約書(通常は図面・仕様書も含まれる)を作成する人と、さらに工務店に発注する人とでは所属部署が異なるというのは良くあることです。なので伝言ゲームみたいなことが起こることもありうるのです。
でも、これをあなたが見抜いたり確認したりするのは難しいのではないでしょうか。
失敗する可能性を減らすための方策3つ
アパート経営は堅実に行えば高齢になっても収入を得るための有効な手段ですし、子供たちの相続税負担の軽減に役立つのは事実です。
では、どのようにしたら成功する可能性を増やすことができるかを解説します。
①下調べをする
何か難しいことをする、というわけではありません。ウェブサイトの閲覧と散歩で事足ります。
人口・世帯数の推移
アパートに住むのは人間です。つまり、人口や世帯数を調べるというのは簡単にできる需要調査です。市役所のウェブサイトなどに住民基本台帳に基づく月次のデータが載っていることが多いです。
ここで大切なのは単月ではなく過去のデータも収集してトレンドを見ることです。上昇傾向・減少傾向のいずれであってもなぜそのような傾向になっているのか、今後もその傾向は持続するのか反転するのかをあなた自身が考えることです。
周囲の土地利用
ちょっと散歩に出かけてあなたがアパート経営を検討している土地の周辺を観察します。こちらは簡単にできる供給調査です。
更地が沢山あれば、地域の他の人たちも同じことを考えるでしょう。業者の営業の人も地域で更地を持っている人たちをくまなく回ってあなたに配ったのと同じ資料をもとにアパート経営を提案をしているでしょう。つまり、更地はアパートの潜在的供給です。
また、すでに稼働しているアパートに「テナント募集中」の張り紙や看板が掲示されていないかも観察します。簡単ですよね?
②契約書は必ず読んでから記名捺印する
契約書は、いろんな交渉を経て当事者双方が納得した最終合意事項を確定するために交わす書類です。なので必ず読んで納得してから記名捺印しましょう。
すごく長いので読むのがおっくうだ、ということであれば弁護士にチェックを依頼しましょう。法律事務所がある地域や弁護士の経験等にもよると思いますが、都内であればタイムチャージ(時給)で1時間当たり25,000円から50,000円くらいが相場です。総額がいくらになるか不安であれば事前に見積りをお願いすれば報酬概算がわかります。
仮に建築費用が5,000万円だとしたら、10万円の報酬でも0.2%です。契約内容の理解が不十分でアパート経営に失敗したらこれくらいの損ではすまないのではないでしょうか?
③建築士に設計監理を依頼する
建築士事務所の中にはセカンドオピニオン業務を受託している会社もあります。建築の現場に赴いて、建物工事が契約上の仕様書・図面の通りに建てられているかを確認してくれるサービスです。
業者任せにしたところ建築基準法違反の物件を竣工されるという事件が実際に起きていますが、壁や屋根の裏を点検するための点検口が設けられていないために確認が難航しているという報道もあります。
建物が竣工してしまってからチェックするのはは大変ですが、建物が建築されている間に何回か現場に足を運んでもらって仕様書・図面と照合してもらえれば安心ですよね?
こちらの報酬は建物の規模や業務範囲(どれだけ頻繁に現地確認をするか)などによって変わってきますので何とも言えないのですが、セカンドオピニオン業務を受託している建築士事務所に相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
アパート経営に失敗する典型的なパターンと成功のための対策について解説しました。まとめると、
- 業者の営業の人やエンドテナントの立場に立って考える
- 下調べや契約書のチェックなど自分で主体的に行動する
- 分からないことは報酬を支払って専門家の助言を仰ぐ
に集約されます。
需要の観点からすると日本の人口や世帯数が減少に向かうなかで、他道府県からの流入が見込める東京以外は状況は厳しいと言わざるを得ません。そこで具体的な戦略としては、
- 需要の減少を前提として相対的に減少の度合いがゆるやかな立地に候補地を絞る
- 東京でアパート経営をする
の2つに集約されるのではないでしょうか。
東京は地価が高いのがネックですが、不動産は共有名義で登記できますので親族や仲間と共同投資すれば高額の物件でも投資は可能です。いくら初期投資額が少額で済んでも賃料の下落や稼働率の低下で借り入れの返済ができなくなっては投資になりませんし、管理を業者に任せればオーナーの所在を問わないのが不動産投資の良さでもあります。
もしもご相談がおありでしたらメニューのお問い合わせページからご連絡ください。